「BIM活用によるPCa部材製作図の自動作成で圧倒的効率化を実現し、さらなる完成度を目指す」
PCa工法のパイオニアとして、低層集合住宅から高層集合住宅まで顧客の多様なニーズに応える大成ユーレック。同社は年間約2,000戸もの集合住宅の設計施工を行うなど、数多くの物件を手掛けているゼネコンである。
規格化されたプランとPCa部材の製造体制を整え、高い技術力を持つ同社が、今回、独自のBIMシステムの運用を開始し、さらなる効率化の向上を実現。そしてこのBIMモデルを活用する独自のシステムは、構造計画研究所の協力を得て開発された。
今回、PCa部材の制作など圧倒的な効率化を実現し、幅広い利活用も目的とする大成ユーレックの「壁式PCa設計BIMシステム」の開発経緯や特長などについて、同社の青木氏、石井氏の2名にお話を伺った。
BIMモデルからPCa部材製造まで自動作成
大成ユーレックは、壁式PCa設計BIMシステム「TU-Ru (Taisei U-lec Revit utility)」を開発し、2020年7月から運用を開始した。これは、同社の主力商品の1つである壁式PCa造集合住宅「パルローグカイ」シリーズについて、BIM意匠モデルからPCa部材製作図を自動作成するシステムである。部門間を横断し、シームレスにデータを共有する「1モデル(ワンモデル)BIM」を実現しており、業界初という注目のシステムだ。
専務の青木氏は、同社の扱う建築物の設計と施工のプロセスがBIMと相性が良いことから、効率化や働き方改革を促進するためにBIMシステムを導入する機会を以前から伺っていた。「当社ではPCa(プレキャスト鉄筋コンクリート)で主要な部材をあらかじめ工場で製造したあと、現場へ持ち込み組み立てる工法を得意としています。設計から製造、施工まで一貫して扱う当社が企画化する集合住宅などの商品は標準化しやすく、BIMと馴染みやすいと考えていました。また社内でも同様の意見が挙がっていました」と、同社のBIM推進を加速させたきっかけを語る。
今回のシステムは、情報収集のために2016年のArchi Futureに来場し、構造計画研究所の展示ブースを訪れたことが契機となった。その後、2017年に入り、BIMシステム導入に向けたコンサルティングがスタート。「完成形のイメージを描いて皆で共有しながら、完成に近づけられるサポートを含めて検討した結果、総合的な技術やフォローの体制がしっかり整っている構造計画研究所に依頼しました」と石井氏は当時を振り返る。
その後、グランドデザインを検討し、要望や課題を構造計画研究所が見える化し、図面を中心とした作業フローからモデルベースの作業フローへの変革を目指した全体構想を構築した。
そして、システム化全体のロードマップを作成し、BIMシステムの開発は目的達成の優先度を考慮し、「STEP1」と「STEP2」に分けて段階的に進められた。なお、大成ユーレックはゼネコンでもあり、PCa部材の製造メーカーという側面も持つ企業であるため、構造計画研究所は開発において業務フローなどの調査を綿密に実施した。
部材設計のシステムから注力して開発を着手
「STEP1」は、PCa部材の工場製作ができるようにまずモデル化、図面化することであった。PCa部材は、板厚、開口の位置とサイズ、接合部の形状、配筋、電気配管部材、設備開口など多くの要素が内包されて1つの「板」(以下、PC板)となる。それらの要素を、工事着工前の設計段階でつくり込む必要があった。
「PC板図は規格化されているとはいえ、標準サイズであっても1つのPC板について図面や仕様書がA3判で150枚ほどあります。それらを参照しながら試行錯誤を繰り返し、システムを構築していきました」と石井氏は当時の苦労を振り返る。
大成ユーレックではBIMソフトとしてRevitを導入しており、プラットフォームとして活用することとしたが、Revitの標準機能では、壁式PCa工法のサポートは用意されていない。そこで、Revit上でPC板のモデリング、板図作成を効率的に行うために必要となる機能を開発。PC板の板割情報と、意匠の壁・床や開口、設備スリーブや、電気配管などの情報を組み合わせ、PC板をモデル化することにした。プランに対応してPC板の割付を自動で行い、壁同士の接合部の種類や形状を決定。開口部や配管を設定すれば、PC板の中の配筋を自動生成するフローである。このとき、各要素で干渉が起こさず整合性を保つために、PC板の配筋を3Dモデルとして表現した。
BIM配筋モデルでは、PC板に設けるスリーブなどと配筋の干渉をチェックし、適切な配筋の切断や補強筋の配置が自動的に行われる。
そして、スリーブの位置などを変更すれば、BIM配筋モデルも変更される。設備と電気については、設備専用3次元CADのRebroを用いて設計を行い、それらの情報をRevitに受け渡して戻すように工夫した。さらに、壁式構造計算プログラムと連携し、必要な鉄筋データを自動生成する機能も実装。「統合BIMモデル上で事前に干渉チェックでき、意匠・構造・設備・電気・PCといった各種の図面間の修正漏れなどの不整合をなくすことができます。また、手戻りもなくなることで、作業効率は大幅に向上することが見込まれる」と石井氏は期待を寄せる。
意匠設計段階でのモデリング支援機能を統合
2020年に入ってから、大成ユーレックと構造計画研究所は意匠設計を中心とした専用機能を開発する「STEP2」に着手。意匠設計の段階でのモデリング支援機能を拡充し、物件モデルをつくることで、STEP1で開発したPC板図支援機能を活用してPC板図の作成まで一気通貫で行うことが可能となったのだ。
物件モデルを効率的に構築するため、「パルローグカイ」シリーズの標準住戸プラン13種類を選定。そのうち、2つの住戸を鏡像反転しながら配するタイプを「2×2モデル」として抽出し、システム化を進めた。「まずは反転型と最上階のモデルを作成し、建物の階数やスパンに応じて変えられるように検討しました」と石井氏は説明する。標準プランをベースにし、指定した範囲で住戸の間口や奥行を一括で変更できる機能を開発。グループ機能をもたせることで、意匠上、またクライアントの要望などで1ヵ所を修正する場合に、BIMモデルすべてに波及して修正される機能を実装した。伸縮する部分や移動する部分を色分けして可視化することで、直感的に操作できるようにしたという。
そして、バルコニーなどに配される手摺子と手摺支柱を均等に割って配置する機能も実装。デザイン性を考慮しつつ煩雑な設定作業を簡略化することができる。また、標準住戸プランに、3Dモデル以外にもあらかじめ準備しておいた寸法や注記を表示できる機能を開発し、直感的な操作で調整が可能だ。さらに、展開図などを1つのシートに複数レイアウトする作業を効率化。一括ビューに対して寸法を自動生成する機能を組み合わせることで、図面作成の自動化を達成した。
大成ユーレックではシステムの実運用を社内から開始し、「まずは40%の作業時間の削減ができる感覚をつかんでいる」と石井氏。「BIMによる新たな設計を浸透させ、PCa工場との情報連携を強化し、現場からの要望をフィードバックしながら継続的にブラッシュアップしたい」と意欲的に語る。さらに、設計のバリエーションに応じてPC板モデルを構築することで、設計の自由度を高められるようにシステム構成を更新していく予定もあり、同社の前向きな企業姿勢が伺える。
大成ユーレックは今回の運用を「第1段階」と位置づけ、積算、運搬、工事、建物保守にまで活用することも視野に入れたBIM開発を予定。例えば、PC板に時間軸などを設定することで、クレーンでの組み立てシミュレーションに役立てるなどが構想にある。「我々はさらに完成度の高いシステムを目指しています。社内での効率化を進めるのはもちろんのこと、要望や変更にスピード感をもって対応できるようにし、顧客との合意形成や満足度向上に役立てていきたい」と青木氏は展望を語る。構造計画研究所の協力の上で開発された同システムの今後のさらなる展開が期待される。
取材日:2020年10月
大成ユーレック株式会社について
設立:1963年
事業内容:集合住宅やリニューアル工事の企画・設計・施工、コンクリート部材の供給など
本社所在地:東京都港区虎ノ門
代表者:代表取締役社長 松三 均
ホームページ:https://www.u-lec.com/